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sekerto internacionalo

ガンジーに会いに行く

今週のお題「私の沼」

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たまにはお題スロットの話題もいいのかなーと思い。
(たまにはというか、こういう機能があることを今気がついた)

わたしが小さかった時のお話。
小学校の近くに魚がよく釣れる池というか沼がありました。
友達は時々そこで釣りをするが、そこで釣りをするには「命がけ」だと言います。
「え?そこまでしてそこで釣りをしなくちゃいけないの!?」
転校生のわたしは、驚くやらなんやらでわくわくもんでした。

なんでも、そこの沼の傍に住んでいる年配のおじさんが、とにかく少年少女の話なんかは聞いてくれない、頑固で、融通などもいっさい聞かない、そしてそこの沼でで釣りをすると、そのおじさんに沼へ落とされるという話でした。
そして、その沼の底は泥が深く、はまると足が抜けずに、ずぶずぶと沈み混んでいき、最後は泥の中で死んでしまうということでした。

そのほとんど妖怪じみた存在のおじさんは、近隣に住む低学年の子どもたちからは畏怖の存在で、頑固なじじいを略して「ガンジー」と呼ばれ畏れていました。

・・・

ある時、友達同士で釣りに行こうかという話になった時に、いつもの川ではなく、「例の沼」へ行こうという話になりました。
なんでも、みんなが釣りに行かないため、そこの鯉や鮒がとてつもなく大きくなっているということでした。

「おれ、あそこで釣りしたことあるんだ」いつも赤い帽子を被っているKくんが自慢しました。
「ガンジーの家の反対側のほとりで釣りをしたらいいんだよ」Kくんの知恵にみんなは関心しました。
ガンジーの家の反対側なら、例えガンジーがわたしたちを殺しに来ても、逃げる時間はありそうです。

わたしは「ガンジーに捕まったら殺される」という恐怖心と「ガンジーに捕まったら殺されるかも!」という妙なわくわく心があいまって、少し怖かったのですが、結局ついていくことにしました。

そしてみんなで例の沼に到着して釣りを始めました。ガンジーは不在なのか飛び出してきません。しかし、私たちは「いつ飛び出してくるか」という恐怖心に心臓をどきどきさせながら釣りを続けました。

しばらくすると意外なことにガンジーが後ろからやってきました。
「こら!ここで釣りをしてはいけん!!あぶない」みたいな叫びをあげていました。

 

「捕まったら殺される!!」
聞く耳を持たないみんなは、手に手に釣り道具を持って、猛ダッシュで逃げました。しかし、Tくんがガンジーから逃げようとして焦ったのか、沼のフチで足をすべらし、運悪く沼にはまりました。
「あーーあーーーー!!」Tくんはなさけない声を出して、ずぶずぶと沼にはまっていきます。

幼いわたしたちは沼にはまっていくTくんをただただ呆然とみているだけでした。そこにさっそうとガンジーがやってきて、ずぶずぶと沼に入っていき、Tくんを助けてだしてくれました。
「助かったー」とTくんは無邪気に喜んでいました。
「危なかったな」とわたしたち。
「あれ?ガンジーは?」みんなが少し落ち着いて気がつきました。そう、ガンジーがいなくなっていることに……。

 

ふと沼を見ると、ガンジーが沼に首まではまっていました。
Tくんよりはるかに重いガンジーです。自分の体重でどんどん沈んでいきます。

「ああー、ガンジーが死んじゃう!!」みんなは死を目の前にして動揺しました。

「お前ら、これからはここで釣りをしちゃいけんぞ」

ガンジーは自分の死期が間近に迫っているにもかかわらず、忠告してきました。

「はまったら死んでしまうからな」

ガンジーは続けました。その顔は死を悟っていました。

そして最後の力を振り絞り、親指を立てにっこり笑うと、ゆっくりと沼の中に沈んでいったのでした。
・・・
その日からガンジーは消えました。子どもたちの間で、ガンジーを見ないよね?ということが話題になりましたが、しばらくすると、みんなはガンジーのことを忘れていきました。
でも釣りにいったわたしたちは知っています。あの沼の底にはガンジーがいることを。


(おしまい)
一部思い出脚色